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暗闇――いや、かすかな非常灯の光が足元を照らす。  そして会場全体を埋めつくす熱気――人々の期待感とざわつき。 ビ―――  開演の音。ザワついていたがシーンと静まり返る会場。  するすると幕が上がり、開いていく。  まだステージ上に光は無く、暗い。だが、ステージ上に人影があるのは解る。  ――二人? どうやら背中合わせで立っている様だ。  片方の方がやや大柄。頭一つぐらいか? カツカツカツ!!  リズムを取るドラムステック。 ドン!! ジャァーン!!  ドラムの音に合わせ、音と光が溢れ出す!! ワー―――  観客は一斉に立ち上がり、リズムに乗る!  ステージ上では弾かれた様に離れる二人。長髪とショートカットの女性。  アヤカとまりあ。 「あのころの〜……」  二人の歌声が響く。それに合わせるかのようなツイン・キーボード。 ――いや、少し違う。一つはシンセサイザー・キーボード。  マイコとせりお。  バックミュージックに合わせ、歌い、踊る二人。  大柄なまりあ。  躍動感あふれるアヤカ。  コーラスを見事に入れるマイコ。  歌うことは無いが、4ヶあるキーボードで演奏するせりお。ドラムも彼女が再生した。 ジャン!  オープニングソングが終わる。パチンと手を合わせるアヤカとまりあ。 「みんな〜 乗ってる〜〜??」  イエーイ! 「声が小さいぞ〜〜 乗ってる〜〜???」  イエ〜〜〜イ!!!  いつものまりあの掛け声。それに合わせるアヤカ。 「じゃ、Party Time 始まります。みんな、聞いてね」  ワ――― 「それじゃ、まずはBrand New Heart、花咲く乙女、2曲続けて聞いてください」  ワー――  彼女達のステージが始まった。   ちゃちゃっちゃっちゃちゃ・ちゃちゃっちゃっちゃちゃ……   Brand-New Heart……今ここからはじまる〜   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  Party Time
  それが彼女達のユニット名。  ツイン・ボーカルにツイン・キーボードという変わったグループ。  年齢・経歴一切不明。  ……マスメディアのインタビューに答えた事は無く、際立ってるのがTV出演をしないという事で非常に変わっている。  彼女たちの容姿なら充分にTV映えする。  事実、数局からの出演依頼は有る。  今のマスコミ全盛に対し、TVに出ないと言うのは非常に痛い……筈だ。  だが、彼女達の歌声は街頭にあふれ、CDは店頭に必ず平積みされる。  ……巨大な資本が動いていることは想像に難しく無い。  だが、CDはまたたく間に売れ、街頭ポスターは盗まれる。  彼女達の経歴はほとんど闇の中なのにもかかわらず……だ。  ……ファンは知らない。  ボーカルが格闘の達人だと言う事を。  銃器の扱いにたけている事を。  キーボードがメイド・ロボだと言う事を。  何処にでもいる女子学生だと言う事を。  ……ファンは知らない。ただ、闇の中の経歴を想像するのみ。  今日のライブも満員だった。 ――・・――・・――・・――・・――・・――  一通り演じた後、ステージ上に4人が集まり、まりあがこう言い出した。 「実は、重大発表が有ります」  シーンと静まり還る会場を埋めつくしたファン。 「Party Timeは今回限りで解散します」  エ―――!!  会場内はザワつき、ファンの悲鳴が轟く。  マイコが手でまあまあと押さえる。 「極普通の女の子にみんな戻ると言う事で話しが纏まったんですよー」 「―解散後はみんな「家事見習い」になる予定ですのでもう演じることは無いと思います―」 「みんな〜、ごめんね〜」  アヤカが軽やかに言い放つ。 「まったく、なんでこうなったんだか?」  まりあの言葉に反応したのはマイコ。――顔が真っ赤になると言う事で。 「マイコ、真っ赤よ〜。何でかな〜? ああ、そう言えばもう遠距離恋愛の終了だったかしら? 彼が帰って来るのよね〜」 「アヤカ! 何言い出すのよ!!」  ふだんのボーとしたマイコからは考えられない反応。  あまりの爆弾発言に会場のファンは唖然としている。 「オレのマイコが〜〜」 「マイコちゃ〜ん」  泣き出しているファンもいる。 「ほんと、アヤカも良く言うわね。花嫁学校通うんでしょ? 挙式来年だもんね〜〜」 「な、な」  まりあからの攻撃にうろたえるアヤカ。 「キャ〜 アヤカさま〜」 「アヤカちゃ〜ん」 「―そういうまりあさんは、彼を追って欧州に行かれるんですよ―」 「せ、せりお!」  ゆでだこ状態のまりあ。 「まりあ様〜」 「まりあ〜〜」  なぜか女性からの黄色い声の方が多い。 「せりおこそ……って、何も無いわね。そう言えば」 「―はい。わたしは特に―」  ステージ上は爆弾発言の嵐。舞台袖では4人のマネージャーが泡を拭いて倒れている ――合掌――  もはや会場は怒濤の如くなっている。……収拾が付くのだろうか? 「―では、4人のラストソング、聞いて下さい―」  会場内を埋めつくすファンを無視して進行する4人。 「ホワイト・アルバム」  これが最後。飛ばしまくる4人。  やめないでー! 「みんな、ありがと〜〜」 ――・・――・・――・・――・・――・・――  楽屋にて 「終わったわね〜」 「―はい、綾香様―」 「あらあら、もうこの子は戻ってるよ、ねえ、麻衣子」 「ホント、しょうが無いわねー」 「―ところでこのプレゼントどうしますか?―」  セリオが指差したのは楽屋の中心に堆く積まれたプレゼントの山。  4人とも余り興味が無いが、無下にする訳もいけない。 「セリオ、いつもの様に危険物が無いかチェック、その後誰宛か分けて」 「―解りました―」 「あ、この箱かわいいよー」  麻衣子が一つの箱を取り上げて見ている。――宛て先はマイコ様宛―― 麻衣子はあたし宛ねとガサゴソと開け始めようとするが、 「―麻衣子様、お待ち下さい―」 「ん? なに? セリオ」 「―金属探知機に反応。形状からして剃刀がしこまれているかと―」 「えっ?」 「何々? 剃刀箱? また古風ねえ」 「しょうも無いな」  興味心身な綾香と対象的なマリア。綾香はしげしげと箱を眺めると、 「ね、セリオ、箱の中味、解る?」 「―スキャン開始。……少量の火薬反応有り。どうやら煙箱ですね―」 「なるほど、剃刀で手を切って驚いた所に煙……パニックになるかもね」 「綾香〜 どうしようー」  麻衣子は身体から遠ざけようと腕を一杯にのばして箱をいまだに持っていた。 ……下手に扱っていいのか解らなかったのだ。 「棄てちゃいなさい。そんな物」  容赦ないマリアの声。だが、綾香はその箱を麻衣子から受け取ると 「ふ〜ん、さすがに宛て先は無し、か。セリオ、消印から発信者追えるかな?」 「―来栖川警備保障を使えば、恐らく―」 「では、来栖川綾香として発令。発信者に社会的制裁を。パスワードは……」  そこで綾香はすこし言い淀むと 「あ〜ん、浩之、可愛い!」 「―パスワード確認。声紋クリアー。発令します―」  はぁ。  マリアと麻衣子の呆れた溜め息。 「綾香、さすがに何度聞いてもそのパスワードは気が抜ける」 「そうですよねー」  さすがに二人から揶揄われて赤くなる綾香。 「いいじゃない。まず普通じゃ言わない言葉だし」 「……でも普通パスワードにはしないよー」 「あ〜ん、マリア、麻衣子がいじめる〜」 「知らん」  セリオはそんなやり取りをしてる3人と違いプレゼントをもくもくとチェックしていく。 「―他に危険物は有りません、が、髪の毛がつまった箱が一つ有ります―」 「髪の毛? また変な物を。誰宛?」 「―マリア様宛……失礼しました。どうやら着け髪です―」 「着け髪? ふううん、どうやらその人、マリアの長髪がみたい様ね」 「……長髪、か」  確かにこのメンバーで長髪では無いのはマリアのみ。  どこか中性的な雰囲気で人気が高い。  ……容姿の所為か、女性ファンの割合が最も多いのもマリアだが。  だが、当の本人の反応はあっけない。 「―あとドライフラワーが同封されてますね。発信元は……ベルリンですね―」 「え? セリオ……だれから?」 「―発信者は、大神さんです―」 「貸して! 速く!」  マリアはセリオの手から引ったくるように受け取ると大事そうに――充分慌てて――開封した。  出て来たのはマリアの髪と同じ色の着け髪と――ドライフラワーのブーケ。  マリアはそっと大事そうに、壊さないようにブーケを抱えた。 「ねえ、麻衣子、大神って、確か……」 「そうですよ、綾香さん。そのはずですよねー」 「でも、あのドライフラワー、ウエディング・ブーケよ」 「大神さんもまめですねー」 「……ごめん、みんな。今日の打ち上げパス」  マリアはブーケを片づけ、箱にそっと荷物の中にしまい込みながらそう言った。 「え〜、ちょっと」 「綾香」 「―綾香様―」  二人にたしなめられて綾香はちょっと不機嫌そうだが、立ち直りも速い。 「解ってるわよ。それじゃ、マリア、またね」 「すまない」  マリア、帰宅。――髪を伸ばそうと決心しながら。 「マリア抜きで打ち上げする訳には行かないわよね……」 「―そうですね―」 「う〜ん、どうしましょうかねえー?」  騒ぐことしか頭に無い綾香とマイペースなセリオ。……考えて無いような麻衣子。  コンコン 「あら、誰かしらね―。はあい」  カチャ。 綾xセリが止めるまもなく扉を開ける麻衣子。  扉の外には男性が立っていた。 「ただいま、香坂さん」 「……お帰りなさい」  麻衣子はまるで銅像の様に立ちすくんでいたが、その声で魔法の呪縛が解けた。 ――涙を流す事によって。そんな麻衣子をそっと抱きしめる。  麻衣子の今にも消えそうな声。男性の胸の中で泣く麻衣子 「ちょ、ちょっと香坂さん」 「あ〜、麻衣子、もう帰ってもいいわよ」  事情を察した綾香が助け船を出す。 「……ごめんなさいねー」 「はいはい、またね」  麻衣子、退場。――半年ぶりの彼の腕の中で。 「とうとう二人だけになっちゃったわね」 「―そうですね。浩之さんは?―」 「浩之? だめだめ、今日は出張中だし、ここまで迎えに来るような甲斐性、無いわ」  まず来ないだろう。浩之なら。綾香は思った。だが、退場した二人を羨ましく思っているのは事実。 ……もう、花ぐらい送って来なさいよね。  そんな綾香の思いが通じたのだろうか? 「それが迎えにきた彼氏に言う台詞か? 綾香お嬢様」 「ひ、浩之? どうして此処に?」  綾香は飛び上がらんばかりに驚くとさっとセリオの影に隠れる。 「どうしてって、出張が早く切り上がったから迎えに来たんだ」 「どうやって此処に入って来たのよ?」 「なんだよ、人を幽霊みたいに。さっき香坂さんと入れ違いで入って来たんだが…… 気づかなかったみたいだな。お前の考えはよ〜く解った。セリオ、こいつほっといて帰ろうか」 「―はい、浩之さん―」 「浩之〜 悪かった! 反省してます。これこの通り」  パンと顔の前で手をあわせて片目をパチリとウインク。  その目はまるで捨てられた小猫。視線は「かまって光線」を発している。  そんな綾香に浩之は「あの視線にな〜」とか思いながら、 「しょうがねえなあ。ほら、帰るぞ」 「うん!」  浩之が手を差し出すと綾香は嬉しそうに浩之の腕を抱きかかえる。 「ね、ね、何処か行かない? 浩之〜 お腹空いた〜」 「そうだなあ、セリオ、いい所ないか?」 「―ご案内いたします―」  綾香、セリオ、退場。――帰宅にはほど遠い。 ――・・――・・――・・――・・――・・――  翌日、清掃員が楽屋に堆く積まれたプレゼントを家に持ち帰った事を付け加えて置く。 ――その部屋の主が手を剃刀で切って、火災警報機が鳴った事はマリア達は知らない――

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